保健室

 高校二年生から三年生にかけて付き合っていた女の子がいた。とても綺麗で整った顔立ちをした子だったが、彼女の顔で最も特徴的なのは目だった。なんと形容すればいいのか、元気で、芯があり、優しさがあり…そんな彼女の内面が伝わってくるそれは対の黒い宝石のようだった。
 彼女は病弱で、ぼくは高校の時から授業をサボりがちな不真面目な生徒で、かつ精神を既に病んでいたので、保健室で出くわすことも多かった。今でもあの保健室を鮮明に思い出すことができる。途中で変わった保健室の先生、誰かが残していったメモ、太った中年女性のスクールカウンセラー…そして白い布団、白いベッド、白い天井…
 それがぼくの青春だった。清潔な白いシーツの上の、青春。
 ぼくの大学合格が決まった直後に彼女とは別れてしまった。今考えればくだらない理由だが、高校生のぼくたちにとってはとんでもなく重大なできごとがあったのだ。
 あれから数年経ち、彼女はある分野で成功を収めている。この前会ったら相変わらずキラキラした対の瞳をキョロキョロさせていた。
 一方ぼくは、たぶん、まだ、保健室のベッドの上にいる。
 失われた青春を認めることが出来ず、横たわって、白地にまだら模様の天井を見上げている。
 そろそろこの硬いベッドから起き上がらなくてはならない、そう思う。