諦観

 何を書けばいいのか分からないのに何か書きたくてでも何を書けばいいのか分からないから何を書けばいいのか分からない。
 右手の中指に小さな切り傷がふたつ出来ている。何時間か前に代々木公園で無理矢理ビールの瓶を開けようとして出来た傷だ。ぼくが上手く開けられずに苦労していると、通りすがりの外国人が鍵を使って器用に開けてくれた。ありがとう。ハブアグッドナイト。そうお礼をすると彼は笑顔で仲間の元へ戻っていった。
 生活は続いていく。最早これが生活なのか分からない。辞書を引いてみる。
せい‐かつ〔‐クワツ〕【生活】
[名](スル)
1 生きていること。生物がこの世に存在し活動していること。「昆虫の―」「砂漠で―する動物」
2 人が世の中で暮らしていくこと。暮らし。「堅実な―」「日本で―する外国人」「独身―」
3 収入によって暮らしを立てること。生計。「―が楽になる」
 
 とりあえず生きていればそれは生活になるらしい。ぼくのウォークマンから流れる「生活が出来そう」というフレーズは間違っているらしい。
 でも生きてればなんでもいいじゃん、つーかむしろ死んだっていいじゃん、どうせ生きてればいつか死ぬんだから今死んだって100年後に死んだって同じだよ。高校生の時に読んだ中島義道の本にそう書いてあったよ。
 多分意味を見つけたいのだ。生きていくことの中に意味を見出して、それを生活と呼びたいだけのことなのだ。時間は過ぎていく。誰にも止められない。止められても困るし。でも時間が止められたら誰も気付かないじゃんウケる。小学生の時なんかは実は世界は1秒ごとに静止しているんじゃないかって思ったりしたよ。でも量子力学かなんかが時間は止まらずに流れていくことを証明したらしいよ。
 円城塔の小説に時間の流れがぐちゃぐちゃになった世界の話があったよね、ユグドラシルっていう人工知能が可愛かったことしか覚えてないけど。屍者の帝国、あれどうにかならなかったのかな、本人も不満だったらしいじゃん、あれはあんな形で出版すべきものじゃなかったと思うよ、なんだっていいんだけどさ、ハーモニーや虐殺器官みたいにまた読みたいって思えるタイプの本じゃないんだよね、面白いとは思うんだけどさ、単行本の初版で読んだし。そりゃオタクだから伊藤計劃好きだよ、どうでもいいけど今伊藤計劃って打ったら一発で変換されたよ、昔はされなかったのに。死んでから何年も経ってからやっと計劃って一発変換されるようになるのちょっと可哀想、ぼくそんなに文章上手くないしそんなに人生楽しくないからぼくの分まで彼が生きて面白い本沢山書けばよかったのにな、荒削りなのにストーリーだけであそこまで読ませるのはすごいよ、アニメ化も近いね、花澤香菜はどの役をやるの?どうせなんかの役やるでしょ。
 ディストピア小説は好きだ、ハクスリーの素晴らしき世界とかオーウェルの1984年とか。映画だとゴダールアルファヴィルが好き。ちょっと近未来に対する想像力が足りない映画だけどさ。あとガタカとかも好きだよ、優性遺伝子劣性遺伝子。それが全てを決める世界。全てが記録される世界。Watch Meで全てを監視される世界。
 彼らがなにを言いたいかっていうとそんな世界と今の社会って何が違うの?ってことなんだろうけどさ、ぼくにはすごく斬新な発想に見えたんだよ、はじめて1984年を読んだのは小学四年生の時だった。親に2週間オーストラリア旅行に連れて行かれて、カラマーゾフの兄弟と1984年を荷物に入れておいたんだ、小学校中学年なのに背伸びしてそんな本ばっかり読んでた、でも読めることには読めるしさ、やっぱり面白かったんだよね、思い出した、あとダンテの神曲も持ってったな、あれは読破出来なかった、長かったしよく分からなかった、今読んだらどうなんだろう。
 何だかぼくは小学校の時にドフトエフスキーを読んでからドフトエフスキーは怖いという刷り込みがあってロシア文学自体中々読めない。ドイツ文学も同じ。小学生だから明日起きたら虫になってたらどうしようって思って中々寝れなかったんだ、カフカはドイツ文学じゃないって言われたって困るよ、だってウィトゲンシュタインは英米哲学だしオスカーワイルドはイギリス文学かフランス文学だよ、プラハカフカミュージアム行ったからその位知ってるよ、カフカはミュージアムは正直ショボかった、箱根にある星の王子さまミュージアムに雰囲気が似てるけどもっと小さい。しかもアクセスが悪い。提携してるミュシャミュージアムはアクセスも良いし絵も綺麗だった、ヒアシンスの王女さまの絵。
 ミュシャの絵みたいなものだけが世界に満たされればいいのにな、そうすればもう少し優しい世界になるかもしれない、でもぼくはインドの汚れた雑踏も好きなんだよね、日本人は生活してるとは言えないよ、なんか機械みたいでつまらなさそう、インドの人たちは生活してるよ、一生懸命生きてる。
 こんな文章を書いているだけで2000字をこえてしまった、今週末にぼくが仕上げないといけないレポートと同じだけの文字数。こうやって意味のない文字列を垂れ流すのも生活。